Tuesday, November 4, 2008

モバイルCPUの調査


携帯向けDSP/CPU
http://d.hatena.ne.jp/handoutai/20070706

最近の携帯電話に採用されるCPUやDSPは非常に進化を遂げ、CPUを幾つも搭載した1chipソリューションが出ている。

現在携帯電話に採用中のプロセッサには、『ベースバンド・エンジン』『アプリケーション・プロセッサ』と呼ばれるプロセッサがある。分かりやすく言えば、W-CDMAのモデムチップ(ベースバンド)はQualcomm、アプリケーションプロセッサはTIのOMAPプロセッサを使うケースが多い。

『ベースバンド・エンジン』は、携帯電話のマイクやスピーカで扱えるような通話音声の符号化/復号化、プロトコル制御などを行うプロセッサを指す。物理的な電波そのものを発したり、音声帯域の低い周波数の信号を扱い、通話にかかわる制御を行う中核のロジックとなっている。また、ローエンドの携帯にとっては、唯一のプロセッサであり、電話帳の管理から写真の伸長/圧縮まですべてをこなしているのがベースバンド・エンジンとなっている。現在の仕様では「デジタル信号処理を行うDSP」と「制御を行う汎用プロセッサ」というマルチプロセッサが主流となっている。ベースバンド・エンジンはビット・レートの低い通話音声の伸張圧縮が主体なので、比較的性能の低いDSPで済むが、アプリケーション・プロセッサ側は非常に負荷の重い動画向けに高速なDSPが必要になる。また、ベースバンド・エンジンのコア・プロセッサは非力だが電力消費の小さいARM7クラス、アプリケーション・プロセッサ側ではARM9や、ARM11クラスの高速コアを搭載するといった違いがある。

『アプリケーション・プロセッサ』は、カメラで撮影した動画や静止画などを圧縮して送信可能なデータにし、ベースバンド・エンジンに渡す。逆に圧縮して送信されてきた動画や静止画などをベースバンド・エンジン経由で受け取り、伸張して液晶パネルに表示するといった作業を担当する。こういうものが存在していれば、複雑化しているユーザー・インターフェイスなどの作業のほとんどをアプリケーション・プロセッサに任せられるようになるので、ベースバンド・エンジンは本来業務の通信に専念できる。

■Texas Instruments製のアプリケーション・プロセッサ「OMAP」

TIといえばDSP。DSPといえばTIという程にTIのDSPは優秀ではあるが、ここ最近の動向では、NECが非常に頑張っている。いまや全世界のベースバンド・エンジンで採用されているコア・プロセッサのほとんどが、ARMベースとなっている。そしてベースバンド・エンジン向けDSPの代表は、Texas Instruments(TI)製である。ARM9系コアにTI製のDSPを組み合わせることで高い処理能力と低消費電力を実現している。特に欧米の携帯電話での採用が多く、高いシェアを誇っている。シェアが大きいことから、サードベンダなどが供給するゲームやブラウザなどのアプリケーションも必然的に両者向けが充実することになる。そのため、アプリケーション・プロセッサが必要とされるような段階へ移行するときに先行することになった。その代表がTIのOMAPシリーズである。ドコモのFOMA端末のほとんどは、これまでQUALCOMMのW-CDMAのモデムチップ(ベースバンドチップ)に加え、TIのOMAPプロセッサをアプリケーションプロセッサとして搭載する2チップ構成を取っていた。こうした分離型の構成は、最新機能への搭載がたやすくハイエンド端末には向くが、コスト面からは安価な統合型チップも求められていた。OMAPV2230はその答えとなるTI最初の統合型チップだ。W-CDMAおよびGSM/GPRSに加え「HSDPAもサポートする」としている。プロセッサ部分はARM11コアを使ったOMAP2アーキテクチャーをベースとしており、FOMA端末メーカーがこれまで使ってきたソフトウェア資産をそのまま利用できる。OMAP2プロセッサは、FOMA902iシリーズのパナソニック モバイル、NEC、シャープ、ソニー・エリクソンなどが搭載している。統合型チップのOMAPV2230は、OMAP2430の次世代のOMAPコアをベースとする。OMAPシリーズは、ARM9系コアにTI製の強力なDSPを組み合わせている。NTTドコモのFOMA携帯電話のほとんどにTIのOMAPプロセッサが搭載されとともに、NTTドコモとTIとの長期に渡る関係に基づく3Gチップセットの共同開発も行う。ワールドワイドで見ると、特に欧米の携帯電話での採用が多い。一方、ARMコアは広く普及しているだけに、TI以外にも多くのベンダがARM系コアに独自のDSP機能を結合したようなアプリケーション・プロセッサを販売している。STMicroelectronicsが発表した「Nomadikファミリ」や、無名のベンチャー企業の製品までさまざまである。第2世代(2G)の携帯電話ではベースバンド・エンジン単独処理であったが、2.5Gではベースバンド・エンジンにアプリケーション・プロセッサか、それに近いような機能を持つ専用の画像表示系のICが追加されることが多くなった。そして、第3世代(3G)ではアプリケーション・プロセッサが必須となる。携帯電話は、中国でも急速に立ち上がっており、その出荷台数は年間数億台になろうかという市場規模になっている。

◎OMAP2の製品ラインナップと採用事例(★はプロセッサを示す)

・OMAP1610 FOMA 900iなど

★TMS320C55x DSP core subsystem Up to 204 MHz (maximum frequency) ★Video hardware accelerators for DCT, iDCT, pixel interpolation, and motion estimation for video compression ★ARM926TEJ core subsystem Up to 204 MHz ARM926TEJ V5 architecture (maximum frequency) ・USB On-the-Go (OTG) Two SD/MMC/SDIO ports・Fast IrDA (FIR)

・OMAP2420 FOMA 902iなど

★ARM1136 processor (330 MHz), ★TMS320C55x?DSP (TI製220 MHz),★2D/3D graphics accelerator,★imaging and video accelerator,high-performance system interconnects and industry-standard peripherals.

・OMAP2430(ビデオ性能などが向上。2006年第3四半期~量産)

★ARM1136 RISC processor(330MHz)★2D/3D graphics hardware acceleration (OMAP2430 only)★IVA 2が追加(boost mobile video playback performance to DVD quality)

・OMAPV2230(モデムとの統合チップ。2430の次世代コアを統合したUMTS Solution)

・OMAPV1035 ("eCosto") GSM/GPRS/EDGE Single-chip Solution

・OMAPV1030 GSM/GPRS/EDGE Solution

■ARM

OMAPの話ばかりになってしまったが、ARMコアとして捉えると、日本でのARM採用事例(OMAP、Qualcommのライセンスコアを含む)としては、NEC N902i、Sharp 900i、Nokia 5300、okia 7610、Samsungの約20機種、Sony Ericsson K600i、T610 & T616、W800i等がARMを採用している。GSMベースの場合は、最近であれば低価格1chipベースバンド(InfineonのS-GOLD2など)が一般的に使われるが、現時点で日本の場合はCDMA/W-CDMAベースなので、高価格(高機能?)なQualcommを使う事となるケースが非常に多い。Qualcommの採用状況を言えば、KDDIのau端末が2つのCPUコアを内蔵したEV-DO Rev.A対応チップセット「MSM7500」を搭載。自社製のBREW(BREW Client 4)は当然搭載される。「EV-DO Rev.A」は、第3世代の移動体通信方式である「CDMA2000」に属する高速なデータ通信規格のひとつ。正式には「CDMA2000 1xEV-DO Revision A(IS-856-A)」 Rev.Aの前には、「CDMA2000 1xEV-DO」という規格があり、Rev.Aはその後継規格。日本では、auがEV-DO Rev.Aを利用して、2006年中に導入する考えを発表している。「CDMA2000 1xEV-DO」については、2003年10月からKDDI(au)が「CDMA 1X WIN」というサービスブランドを展開している。EV-DOの“DO”は、「Data Only」の意味。データのみをやり取りして、音声のやり取りはしないという意味で、高速にデータ通信を行う。EV-DO Rev.Aでは、EV-DOで使われていた設備、特に地上系のネットワーク設備の多くが流用可能である。これまでEV-DOでサービスを行なっていた事業者にとっては低いコストで始めることができるWAN(Wide Area Network)サービスであり、他事業者との競争のために強力な武器となる規格である。なお、従来規格のEV-DOは、Rev.Aと区別するためにRev.0と呼ばれることもある。

■Qualcommの「EV-DO Rev.A」

「EV-DO Rev.A」の特徴は「速度の向上」「マルチキャスト」「QoS」

●速度の向上:EV-DO Rev.Aは、EV-DOと比較して、端末から基地局への上り速度、基地局から端末への下り速度とも増速。その前のRev.であるEV-DOでは、下り最大2.4Mbps、上り最大144kbpsだったが、Ev-DO Rev.Aでは下り最大3.1Mbps、上り最大1.8Mbpsになった。

●マルチキャストに対応:EV-DO Rev.Aでは、「マルチキャスト」(1対多の通信、またはブロードキャスト)が可能になった。「ブロードキャスト=放送」だけでなく、チャンネルを合わせた複数の端末が“放送しているデータ”を受け取れる。このような技術を使って行なうサービスのことをBCMCS(Broadcast/Multicast Services)と呼ぶ。マルチキャストのメリットは、大きなデータを複数の人に送信するために、帯域をそれほど利用しない。マルチキャストであればデータ帯域×1で済む。ただし、無線通信の場合、複数の受信者がいると「基地局から近くて電波状況のいい人」や「基地局から遠くて電波状況の悪い人」がいることになります。環境が異なる、その両者がデータを受信できるようにするには、遠い人でも受信できるようにしなければなりません、そのため、マルチキャストを利用した場合は、全体の通信速度が遅くなってしまうという弱点も持ち合わせる。

●QoS対応:「QoS」とは、サービスの品質を意味する「Quality of Service」の略。通信の場合にはある一定の品質、つまり通信速度やデータの品質を保証することを意味する。これまでのEV-DOでは、サービスの種類にも利用者の種類にもよらず、通信で取り交わされるデータがベストエフォートとされており、速度や品質は保証されていませんでした。EV-DO Rev.Aでは、ネットワーク上で特定のユーザーに帯域を優先的に割り当てることで、それぞれの用途に対して一定の通信品質、速度を確保する(Qosを保証する)ようになった。これによって、EV-DO Rev.Aでは、「VoIPによる音声通話」にも利用できるようになっている。2011年以降に始まるとされているマルチメディア放送においても、「MediaFLO」という規格で名乗りを上げている。au向けのチップセットとBREWの能力を高めて、商品力のあるプロダクトを早く立ち上げられるという戦略である。携帯電話端末における音声・データ通信を司るプロセッサで、CPUとしての機能のほかに、GPSやマルチメディアの機能を搭載している。

■Qualcommの「ベースバンドチップ」のラインナップ

・MSM7500:★Integrated 400 MHz ARM11 applications processor/★133MHzARM9 microprocessor delivers accelerated★applications processing speeds; the dual-core-based implementation provides hardware-based security domains・Open BREW api software to run uiOne? and BREW applications・QVM JavaR envionment platform with multitasking virtual machine (MVM) and ARM’s Jazelle(Java acceleration)※Jazeleとは、JVNに比べ、JAVAの実行速度を8倍にするアクセラレータ。

MSM5000シリーズはARM7ベース(CDMA2000 1x準拠の仕様に対応。ハイエンドのMSM5500はCDMA2000 1xEV-DO対応)、MSM6000シリーズは、大きくCDMA2000 1x用、CDMA2000+GSM/GPRS用、W-CDMA/UMTS用に分類される。

MSM5K/6k:★ARM926EJ-S microprocessor core★Two QDSP4000 high-performance digital signal processors (DSP)★225 MHz ARMR Jazelle JavaR hardware acceleration

・MSM7600(CDMA2000 1xEV-DO Rel. 0 and Rev. A, WCDMA/HSDPA and EGPRS networks)

★ARM11 applications processor and ARM9 modem★QDSP4000 and QDSP5000 high-performance digital signal processors (DSP)★400 MHz ARM11 Jazelle? JavaR hardware acceleration

■SH-Mobile

ARM優位の市場の中で、唯一といっていいくらい健闘しているのが、ルネサス テクノロジのSH-Mobileシリーズである。多くのメーカーは、自社製の携帯電話がどこのアプリケーション・プロセッサを採用しているのかなどを明らかにしていない。NTTドコモの「ムーバ N505i(NEC製)」やauのCDMA 1X WIN(cdma2000 1xEV-DO)の第1世代機である。「W11H(日立製作所製)」「W11K(京セラ製)」が、SH-Mobileシリーズを採用。2005年からNTTドコモとルネサスが共同開発した「SH-Mobile G1」は、2006年10月以降のモデルで富士通、三菱電機、シャープの3社がFOMA端末に採用した。この「SH-Mobile G1」は、1チップ版という意味でGシリーズとして続く。G1はW-CDMAとGSM/GPRS両方のベースバンドLSIと、312MHz動作のSH-Mobileを1チップに集積し、トランジスタ数は1億8000万に達する。

2007年秋モデルに搭載予定の第2弾「SH-Mobile G2」は、W-CDMAとGSM/GPRSに加え、海外需要をにらんでEDGEと、次世代方式のHSDPAにも対応。OSはSymbian。(NTTドコモとルネサステクノロジの他にも富士通、三菱電機、シャープが参加)「SH-Mobile G3」は、ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションが5社に加え開発に参加。

HSDPA1(cat.81)/W-CDMA(3G)とGSM/GPRS/EDGE(2G)に対応したデュアルモード端末向け携帯電話プラットフォーム2 を2008年度第2四半期(7月~9月)を目処に共同開発。「SH-Mobile G3」と、オーディオ・電源LSI、RF LSIなどの推奨周辺チップセットLSIを含むリファレンスデザインを共同開発し、基本ソフトウェアとして、シンビアンOSTMを搭載、ミドルウェア・ドライバなどの基本ソフトウェア群を一体化。因みにNECとPanasonicはTIとの合弁会社「アドコアテック株式会社」で共同プラットフォームを開発。5社の出資総額は120億円。比率はNECグループ(NEC・NECEL)、とパナソニックグループ(松下電器とパナソニックモバイル)がそれぞれが約44%(約52億8000万円)、TIが約12%(約14億4000万円)を出資。

■NECエレクトロニクスの1chip(アプリケーションプロセッサ+ベースバンドエンジン)ソリューション

NECエレが健闘しているという話をしたが、下記の情報を追加しておく。

今年1月の発表であるが、NECエレクトロニクスのシステムLSI 「M1(S)」がNEC製「SIMPURE(R)N1」に採用された。W-CDMAデジタルベースバンド処理機能とアプリケーションプロセッサを1チップ上に集積したM1(S)が搭載されている。http://www.n-keitai.com/simpure_n1/

・アプリケーションプロセッサ機能部には、最大250MHzで動作するCPU(ARM926EJ-S)

・DSP、多彩な機能をもつ画像処理プロセッサ、3Dグラフィック・アクセラレータを搭載

・デジタルベースバンド機能とアプリケーションプロセッサ機能を1チップ上に集積。

また、先週の7月4日にM1の後継品種である「M2」が発表された。

・ARM926EJ-STMにかわってARM1176JZF-STMを搭載(2倍の周波数性能、50%程度の低消費電力化)プロセスは65nm。

「M2」の主な仕様:

◎[アプリケーションプロセッサ]

・CPU:ARM1176JZF-STM(~500 MHz)

・DSP:K701(~500 MHz)

・DMA コントローラ:メモリ⇔メモリ間、メモリ⇔周辺インタフェース間

・セキュリティ・エンジン搭載

・2D/3Dグラフィックアクセラレータ

・H.264 エンコード/デコード:D1 30 fps

◎[デジタルベースバンド]

・3GPP Release6 (2005/06版) 対応

・3GPP 仕様Mandatory 全項目 対応

・Up-Link:384 Kbps、Down-Link:384 Kbps

・HSDPA >内蔵コア:~3.6 Mbps(Category6) >外付けコア:~7.2Mbps(Category8)

・GSM/GPRS/EGPRS対応

■AMDの今後は?

前回の結論でもあるが、AMDのHester氏はこう話す。

「AMDは、カメラプロセッサ+DSPに内蔵、3CPU+1DSPのマルチコア・プロセッサ、音声&画像のA/D変換・D/A変換に特化したDSPを発表した。今後はデジタル家電での需要が増え、その結果、複雑なソフトウェア層が必要となる。すると、x86アーキテクチャが、家電でも価値を持ち始める。x86の開発環境は、ソフトウェア開発者にとって、組み込み向けのそれよりも、ずっと汎用で生産的だからだ。膨大な量のx86のコード資産を活かすこともできる。そのため、デバイスにx86プロセッサが実装されるのが理にかなうようになると信じている。我々は、2~3年前までにそうした結論に達していた」(AMD Hester氏)

確かにオープン系のWINDOWS MOBILE、WINDOWS AUTOMOTIVE、WINDOWS CE等の状況を考えると、後発メーカーであればあるほど参入障壁は低くなり、携帯電話であればWindows Mobileのライセンス料を気にしなければ開発期間も短期間で済む。但し最先端のデバイスを使うと、バグが大量にあるのでそれほど簡単な話では無い事は事実だが、x86系のモバイル向けCPUが出てくればその問題も少なくて済むだろう。

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