Monday, December 8, 2008

ストレスで成長する!~“元気力”のある“健康職場”を目指して~

確かにマズローの5段説でも同じ結論がある。
 1段目:生理的欲求(食・睡眠などの生存のための欲求)
 2段目:安全の欲求(住居・衣服など自分の身を守ったり
              不安を取り除き安定したい欲求)
 3段目:社会的欲求(他者と関わったり同じようにしたい帰属的欲求
              愛されたいなどの愛情の欲求)
 4段目:自我自尊の欲求(尊敬されたい、認められたい欲求)
 5段目:自己実現の欲求(自分の能力・可能性を発揮し向上したい欲求)

若干仕事辛くてもさえ誇りがあれば、ほとんどの困難が乗り越えられる。
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ストレスで成長する!~“元気力”のある“健康職場”を目指して~

あなたは自分の仕事に、誇りを感じていますか?

激務の全日空時代、あの一言が私を支えてくれた

 私は以前、全日空の客室乗務員だった。ちょうど全日空が国際線に就航して2年目を迎えた年で、勢いある会社の国際線に乗務できることは本当にうれしかった。だが、そんな喜びは一瞬にして消えた。初フライトで「こんなはずじゃなかった」と、とても後悔したのだ。

 新人のCA(キャビンアテンダント)の仕事は、ほとんどが肉体労働だったのだ。お客さんが乗り込むまでにスリッパやヘッドフォンを300席もある客席す べてにセットする(現在ではスリッパは廃止され、CAの仕事ではなくなりました)。トイレットペーパーや化粧水をきれいにセットし、新聞を折る、雑誌を飾 る、レモンを花形にセットする…。

 食事のサービスでは、ひたすら配りまくり、サービス終了後には、お客様が1人トイレに入るたびに掃除する。映画上映中は、ピンセット片手に客席の灰皿の吸殻を一つひとつ取り出し(これも今では、全席禁煙になったのでなくなりました)、機内のゴミを拾って回る。

 あれもこれも、「ウソ、なんでこんなこと私がやらなきゃいけないわけ?」という仕事ばかり。憧れの「スチュワーデスさん」であることを実感できた のは、空港でキャリーバッグを引き、スカーフをたなびかせて歩いていると「うわあ~、スチュワーデスさんよ」と、多くの人が振り向く一瞬だけ(当時はま だ、人気のある職業でした)。

 おそらく、あの一言に出合わなければ、私はストレスでボロボロになっていた。自分の可能性を求めて、退職を決意するまでの4年間。明るく、元気に働けたのは、あの一言のおかげである。「キミたちのかわいい笑顔が、全日空を支えてくれているんだよ」というスタッフの何気ない一言に、私は救われたのだ。

 しょっぱなから、全日空時代の話をしているのは、この一言の持つ意味をお話ししたかったからだ。この連載では、「ストレスで成長しよう!」をコンセプトに、元気で働ける健康職場作りが目的だが、ストレスで成長するには、次の2つの視点からのアプローチが必要だ。

1)個人型のアプローチ
 物事の見方や認知の仕方を修正したり、気づきを与えたりすることで、働く人の元気になる力を増やす

2)職場型のアプローチ
 組織の中に労働者を元気にする環境要因を増やしたり、労働者間の人間関係を改善することで、働く人の元気になる力を増やす 

 職場型アプローチに比べて個人型アプローチは手軽なため、個人向けのストレスマネジメントプログラムと称する手法は数多く存在し、方法論の違いは あれ広く普及している。だが、個人がどんなに物事の考え方を変えても、どんなに個人レベルで元気になる力を増やしても乗り越えられない、しんどい、理不尽 な状況が会社には存在する。

 「私はこんなに頑張っているのに、どうしたらいいわけ?」という状態(現在の社会では、こちらの状況の方が深刻である)を防ぐには、職場型アプローチを取り入れなくてはならない。

 だが、職場型は時間も労力もかかり、そこで働く人にも努力が求められるため、普及しづらい。特に会社のトップが「健康職場を目指そう」という強い 意志を持たない限り、働く人たちもエンパワーされないから、ややこしい。とはいえ、職場で元気になる力を増やす取り組みを行わない限り、現在のストレス社 会を生き抜く元気な社員を育てるのは難しい。

 そこで今回は、「これだけは、せめて職場で準備してくださいよ」という元気になる力の1つを、全日空を例にお話ししようと考えた次第である。

 ここで質問。

 あなたは、自分の仕事に誇りを感じていますか?

 私は、スタッフからあの一言を言われるまで、CAの仕事に誇りなど微塵も感じられなかった。当時どんなに憧れた花形の職業だったとしても、実際の仕 事内容を考えると、「なんで、大学まで出てこんなことやってるんだろう」と正直思った。特に、気圧の関係で機内ではお酒に酔う人が多く、トイレで吐くお客 さんも多い。トイレで嘔吐物の掃除をしている時の気分は最悪だった。「なぜ、ここまでしなきゃいけないんだ」と情けなく思ったものである。

 ところが、スタッフから言われたあの一言で、私の気持ちは180度変わったのだ。機内での数知れない肉体労働にも、お客さんからのわがままな要求にも、そして、最悪のトイレ掃除にも、「ここで私がやっていることには意味がある。頑張ろう」と思えたのである。

 不思議なもので、自分のやっていることに意味を見いだすと、頑張るエネルギーが蓄えられる。自分のやっていることに意味があると思うだけで、トイレ掃除にも誇りを感じることができる。

 これは「有意味感(sense of meaningfulness)」という感覚で、SOC(sense of coherence 参考記事はこちら)を構成する要素の1つだ。

 「あなたは大切だ」という価値あるメッセージを繰り返し経験すると、有意味感が養われる。有意味感が高いと、「ストレスや困難は自分への挑戦で、これらに立ち向かっていくのに意味がある」と考え、前向きに対処できる。ストレスの雨に対峙する傘を引き出すためのモチベーション要因となるのが、有意味感という感覚なのだ。

 憧れのCAになったものの、途方に暮れていた私に、「働く意味」を件の一言は与えてくれた。すべてのCAにとって、これが価値あるメッセージだったとは思えないが、少なくとも私は救われた。「1人の人間として尊重されている」と感じたのだ。

 実は、この「尊重されること」が、元気な社員を育てる大きな傘となる。今改めて考えると、当時の全日空には「社員を尊重する」組織文化があったのではないかと思うのだ。

 組織文化とは、共有されている価値観、信念、目標、期待される態度、行動規範で、一言で言えば「これが正しい」と組織に浸透している会社のルー ル、社風である。価値観を共有できないと慢性的なストレスになり、モチベーションが低下する。逆に、価値観を共有できると、組織に対するコミットメントが 高まり、踏ん張ることができる。

 組織文化には、創業者や歴代のトップの考えが受け継がれている場合が多い。私が勤務していた頃の全日空には(現在の状況は分からないので、あえて 限定します)、日本ヘリコプター輸送(全日空の前身)の創業者である美土路昌一氏と2代目社長の岡崎嘉平太氏の考えが深く社員に浸透していた。

 岡崎氏は美土路氏に請われ副社長で経営参画し、社長になったのだが、自著の中で「美土路先生は、部下の功を奪われないというか、ご自身の功をすべ て部下に与える。困難な仕事を命じられると、こっそり根回ししておいて、成功すると知らん顔をして、『よくやってくれた、君なしではできないことだ』など と誉められる」と語っている。

 社員を大切にする姿勢は、岡崎氏にも引き継がれた。社員の給料も出ないほど全日空が大変な時、両氏が財産を投げ打って社員の年越しの餅代を工面し た話などは、研修や集まりがあるたびに聞かされた。美土路氏や岡崎氏のことをリアルタイムで知らない社員にまで、これらのエピソードが伝説的に伝わってい たことからも、2人の影響力の強さはうかがい知ることができる。

 さて、ここでもう一度、先ほどの質問だ。

 あなたは、自分の仕事に誇りを感じていますか?

 おそらく「人を大切にする」という組織文化がある会社で働いている人は、何らかの形で価値あるメッセージを受け取り、仕事に意味を見いだし、誇りを 感じていることだろう。どんな会社に勤めていても、どんな職業に就いていても、世の中、そんな面白い仕事なんてあるわけないし、自分のやりたい仕事だっ て、そうそうできるものではない。それでも「誇り」は感じることができる。誇りを感じられれば、仕事に楽しさを見つけることだってできるのだ。

 もし、社内にそういう文化や雰囲気がなくても「社会から尊敬されている社会的地位の高い仕事だから、誇りを感じる」と言う人もいるかもしれない。 しかし、それは「偽りの誇り」なので、注意した方がいい。どんなに社会的評価が高くとも、社内で機械の一部のように扱われたら、仕事に意味を見いだすのは 難しい。今後、何か些細な出来事をきっかけに誇りが綻び、ストレスの雨にびしょ濡れになる可能性が高いのだ。

 また「誇りを感じない」と答えた人は、「この会社は、人を大切にする会社なのか?」と、自問自答してほしい。その答えも「ノー」だとしたら、残念ながら「社員を1人の人間として尊重する」傘は、あなたの会社には準備されていないと判断するしかない。

 だが、「これだけは、せめて職場で準備してくださいよ」という「元気になる力」はほかにもあり、キャリア年数によっても傘の有効性は変わってくる (次回以降、ほかの「元気になる力」をお話しします)。私自身、次に求める傘が全日空にはなかったから、4年で退社というチョイスをしたのだ。

 ただ、1つつけ加えるならば、あなた自身も価値あるメッセージの送り手になれる、ということだ。あなたの部下にぜひ、傘を差し出してほしい。

 つまりあなたの部下に、「おう、頑張っているな」と声をかけてほしいのだ。目立たない仕事をやっている部下や、雑用ばかりを任される新人社員には、特に丁寧に声をかけてほしい。彼らにとって今必要なのは、価値あるメッセージだ。

 そして、できれば声をかけた後、その仕事にどんな意味があるかを話してほしい。意味のない仕事なんて会社にはないし、万が一本当に意味がないのなら、そんな仕事はなくすべきだ。意味のない仕事を、大切な労働者にさせるような会社に未来はない。

 価値あるメッセージは、身近な他者から発せられた時ほど、効果的だ。誰もが身近な他者に認めてもらいたいとか、大切にしてほしいと願うものだ。どんなにモテても、自分の好きな人に好かれなければうれしくないのと同じこと。

 上司と部下の関係は、恋愛関係と似ているのだ。「おう、頑張っているな」という上司のたった一言で救われる部下が、必ずいる。最近は「なんか、違 う」と言って会社を辞める若者が増えているようだ。あなたの部下がそうならないためにも、あなた自身が価値あるメッセージの送り手になってみてはいかがだ ろうか。

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