Tuesday, January 27, 2009

福祉国家と市場原理

ふくし‐こっか〔‐コクカ〕【福祉国家】 ふく‐し【福祉】

完全雇用と社会保障政策によって国民の福祉の増進を目標としている国家。

日本大百科全書
福祉国家
ふくしこっか
目次:
福祉国家

welfare state

一般には、国民の福祉増進を国家の目標とし、現実に相当程度に福祉を実現している現代国家をいう。19世紀的自由国家、夜警国家とは異なり、単に消極的な秩序維持にとどまらず、積極的に国民生活の安定・確保を任務とする国家であり、この意味では積極国家、社会国家Sozialstaat(ドイツ語)と同義である。なお、近世ドイツ=プロイセンの啓蒙(けいもう)専制王政も福祉国家Wohlfahrtsstaat(ドイツ語)とよばれていたが、それは、公共の福祉、人民の幸福増進の名のもとに、国家が人民の生活のすみずみまで干渉する警察国家Polizeistaat(ドイツ語)であった。今日、一般的に使われている意味での福祉国家は、1930年代末のイギリスで、ナチスの権力国家ないし戦争国家warfare stateとの対比において、国民の福祉の維持・向上を目ざす国家を意味するものとして用いられたことに始まり、第二次世界大戦後イギリス、スウェーデンなど多くの西欧諸国において、福祉国家の実現を目標とする諸政策が積極的に展開されたことにより、世界的に普及した。
 福祉国家の目標としては、貧困の解消、生活水準の安定、富・所得の平等化、国民一般の福祉の極大化などが掲げられるが、その具体的内容はそれぞれの国の歴史的・社会経済的諸条件により異なる。たとえば、イギリスでの福祉国家の形成に大きな影響を及ぼしたビバリッジ報告『社会保険および関連サービス』(1942)によれば、個々人の資力にかかわりなく全国民にナショナル・ミニマムを保障し、それによって「窮乏からの解放」を実現することが社会保障の目標であり、そのための制度としては、稼得の中断・喪失時に最低生活給付を行う社会保険を主体とし、これを有効に機能させるための前提条件としての完全雇用の達成、家族手当および国民保健サービスの創設などが必要となる。
 福祉国家の共通的特色の第一は、国民の生存権を保障するものとして、社会保障制度が確立していること。第二に、福祉国家は、経済的には資本主義の欠陥である貧富の格差や失業その他の不安定性を修正しようとする修正資本主義のもとでの国家であり、経済に対する国家のコントロールが広範に及んでいる国家である。第三に、政治的には、市民的自由と民主主義を基礎にしていることなどであるが、実際には行政権力の肥大化、官僚化などの問題を内包し、福祉国家論は現実を隠蔽(いんぺい)するイデオロギーであるとの批判もある。
[三橋良士明]

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