http://sun-investor.com/dfcsample1.html
この方の書いたDCFによる企業価値評価が非常にわかりやすくて、引用させていただきたいと思ったところ、おや、ちょっと間違ってるではと気づいた。
下記のように訂正すべきところをリストアップした。皆さんで気をつけてください。
作者もしお読みなったら、是非訂正してください。
・「有形固定資産取得による支出」は記事とおりの損益ではなく、CF計算書から抽出されるとミスがある。
・株主資本=資本金+資本準備金+利益準備金+利益剰余金
また、この記事だけでは理解しづらいところがあるので、必要な情報を追加した。
ここで
FCF=
NOPAT(税引後営業利益)+減価償却費-設備投資-増加運転資本
※NOPAT=EBIT×(1-実効税率)=EBIT-税金
※EBIT=経常利益-受取利息+支払利息
※設備投資=有形固定資産の取得額
※運転資本=売上債権+棚卸資産-買入債務
ROIC=NOPAT/投下資本
投下資本=株主資本+有利子負債
---
負債コスト(%)=支払利息/平均有利子負債
節税を考える場合
負債コスト(%)=金利-負債の節税効果
負債コスト(%)=金利-金利×法人税率
負債コスト(%)=金利-(1-法人税率)
---
資本コスト
=安全資産の利回り+個別株式のリスク・プレミアム
=国債利回り+個別銘柄のβ×市場のリスク・プレミアム
市場全体のリスク・プレミアム(%)
=TOPIX(日経平均)の年間上昇率(%)-国債利回り(年利%)
個別銘柄のリスク・プレミアム
=個別銘柄の調整係数×市場リスク・プレミアム
=ベータ値(β)×市場リスク・プレミアム
理論株価算出 STEP1 DCF法(割引キャッシュフロー法)は、企業の将来を正しく予想してこそ威力を発揮する。しかし、業種によっては将来を予想しやすいところもあれば、明日さえ分からないような不思議な企業だってある。
従って、DCF法を利用するなら次のような企業が有効的だろう。
1) 一流の大企業
2) 売り上げや利益が一定している企業
3) 将来の事業計画がはっきりしている企業
このような企業なら、将来が予想しやすいだろう。
ただし、あくまでも予想は予想であって、将来を約束するものではない。
理論株価なんぞ、投資判断の目安に過ぎない。
決して、DCF法が全てで無い事を覚えておこう。
分析する企業を見つけたら、まずは財務諸表(決算書)を入手しよう。
以下の財務諸表があればOKである。
・連結貸借対照表(B/S)
・連結損益計算書(P/L)
・連結キャッシュフロー法
※連結していない企業は、単独財務諸表を入手。
入手方法は簡単である。
企業のホームページで入手するもよし、EDINETで入手するもよしだ。
大概は、このような感じで入手可能である。
一番良いのは、ホームページでCSVデータがダウンロード出来るなら、それが一番便利である。
あと有価証券報告書は、一通り目を通しておこう。
企業のリスクや、業務予想なんかは特にチェックが必要である。
財務諸表を入手したら過去の財務データを整理する事だ。
この作業は、DCF法に限らず、ファンダメンタル分析をする人なら必ずチェックする事だろう。出来る事なら過去10年分くらいのデータが欲しいところである。
無理ならば最低でも5年分くらいは整理しよう。
この過去のデータから将来を予想するのが一般的である。
もっとも、プロになると、製品の将来性、業界の将来性、海外情勢・・・などなどを織り込んで予想している。
何度も言うが、プロだろうと素人だろうと、予想は予想である。
決して、当たる可能性が100%なんて有り得ない。
あくまでも目安として理解しておこう。
理論株価算出 STEP2 ここでは、実際の上場企業をDCF法で分析していく。
FCF算出のページでも分析したプロネクサスをサンプル企業とする。
まず必要な財務データをザッと以下の通り。
■損益計算書より
売上高、営業利益、経常利益、有形固定資産取得による支出、支払利息、受取利息、支払税金・・・
■貸借対照表より
現金及び預金、有価証券、売上債権、棚卸資産、流動資産合計、有形固定資産合計、固定資産合計、資産合計、短期長期借入金、社債、買入債務、流動負債合計、固定負債合計・・・
■キャッシュフロー計算書より
減価償却費・・・
これらのデータを過去5年から10年分まとめて、売上高成長率やEBITやNOPATもついでに算出する。
【例】クリックすると拡大
まぁ、軽く1時間くらいの作業になるだろう。
しかし、一度エクセルで計算表を作ると次からは数字を入力するだけで分析できるようになるので、是非ここは頑張っていただきたい。
ここまでの作業で全体の約80%は終わったも同然である。
気合を入れて頑張ってくれたまえ!!
DCF法で最初に必要なものは割引率である。
その割引率を求めるには株主資本コストと負債コストを算出しなくてはいけない。
それぞれの計算式は以下の通り。
まずは資本コストの算出から。
市場全体のリスク・プレミアム(%) =TOPIX(日経平均)の年間上昇率(%)-国債利回り(年利%) |
2006年の年間TOPIX上昇率=2.5%
国債利回り(リスクフリーレート)=1.8%
として計算すると、2.5-1.8=0.7%
市場のリスクプレミアムは0.7%となる。
個別銘柄のリスク・プレミアム =個別銘柄の調整係数×市場リスク・プレミアム =ベータ値(β)×市場リスク・プレミアム |
β(ベータ値)=0.1
※算出方法については【エクセルでβ算出】を参照。
それに市場リスクプレミアムの0.7%を積する。
0.1×0.7=0.07
プロネクサスのリスクプレミアムは0.07となる。
資本コスト =安全資産の利回り+個別株式のリスク・プレミアム =国債利回り+個別銘柄のβ×市場のリスク・プレミアム |
安全資産の利回りは、国債利回りの1.8%とする。
この1.8%にリスクプレミアムの0.07を足す。
0.07+1.8=1.87
資本コストは1.87%となる。
以上が資本コスト算出法である。
意味が分からなければ【株主資本コスト算出】を参照。
次に負債コストの算出方法である。
支払利息は5613(千円)
有利子負債が385000(千円)
これを割ると5617÷385000=0.0146
負債コストは1.46%となる。
詳細は【負債コスト算出】を参照。
各コストが算出できたらWACCの算出を行う。
加重平均コスト(WACC)= 株主資本の割合×株主資本コスト +負債資本の割合×負債コスト×(1-法人税率) |
資本コスト=1.87%
負債コスト=1.46%
法人税率=45%
金利=1.8%
株主資本の割合は株主資本÷(株主資本+有利子負債)で求めれる。
計算すると25627556÷(25627556+385000)=98.52%となる。
負債の割合は100-98.52=1.48%となる。
以上の数値よりWACCを算出すると
98.52×1.87+1.48×1.46×(1-0.45)=1.85%
プロネクサスの割引率(WACC)は1.85%となる。
詳細については【WACC】を参照。
以上で割引率は算出できた。
次はFCFの算出を行い、将来の業績を予想していこう。
理論株価算出 STEP3 DCF法をするには、将来の財務予想が不可欠である。
一般的に売上高と同じ比率で成長していくと仮定して予想する。
例えば、売上高が1000万円、営業利益が100万円だったと場合、売上高営業利益利率は10%となる。次の年の売り上げ予想が2000万円だったら、その10%の200万円が営業利益と予想される。
この方法で引き続きプロネクサスのDCF法分析を進めていく。
過去のデータより、今後の売上高を予想する。
予想作業は、はっきり言って個人の性格が出る。
強気な人は大きな成長率を予想するだろうし、弱気な人は控えめな予想をするだろう。私の場合はチキン野郎なので控えめな予想となっている。
では、過去の売り上げ推移を見てみよう。
あ | 第57期 | 第58期 | 第59期 | 第60期 | 第61期 | 第62期 |
売上高成長率(%) | 21.0% | -4.6% | -8.1% | 0.9% | 17.2% | 10.7% |
よい時は20%を超える成長をしているものの、悪い時は-10%近く落ち込んでいる時期もある。近年の3年間はプラス成長を続けているも、何とも予想しづらいケースである。
単純に平均して6.2%の成長率である。
私の場合は、ここから安全域を儲けて3分の2にする。
この3分の2に大した意味はない。ただ何となくである。
計算式にすると6.2/1.5=4.1
売上高の成長率は4.1%で決定!
この成長率だと今後5年の売上高推移は以下のようになる。
あ | 平成19年 | 平成20年 | 平成21年 | 平成22年 | 平成23年 |
売上高(千円) | 21683429 | 22586094 | 23526336 | 24505720 | 25525875 |
※本当は10年後まで予想するのが良いが、スペースの関係上5年にしている。
【売上高EBIT率】
EBITとは、経常利益に利息を足したり引いたりしたものである。
計算式にすると以下のようになる。
2006年度のEBITを計算すると
経常利益=4119085(千円)
受取利息=7779(千円)
支払利息=5613(千円)
計算して4119085-7779+5613=4196919
EBITは4196919(千円)となる。
このEBITが売上高の何%を占めているのか?を見るのが
売上高EBIT率である。
計算すると20.16%と算出されるが、売上高成長率と同様に3分の2とする。
そうした場合は13.44%となる。
【実効税率】
実効税率はEBITに対して支払った税金の事である。
法人税、住民税及び事業税=1803439(千円)
EBIT=4196919(千円)
実効税率=1803439/4196919
実効税率=42.97%
実効税率は約43%となるが、四捨五入して実効税率=40%とする。
続いてNOPATの計算
NOPAT=4196919×(1-0.4)
NOPAT=2518151
≫参考ページ【NOPATとEBIT】
【売上高設備投資率】
設備投資率は『有形固定資産の取得による支出』と考える。
これを売上高との比率で見る。
売上高設備投資率= | 有形固定資産取得による支出 | 売上高 | |
有形固定資産の取得による支出=155208(千円)
売上高=20816839(千円)
設備投資率=155208/20816839
設備投資率=0.75(%)
設備投資率は0.75%となる。
企業が将来の設備投資計画を立てていれば、その金額の方が良い。
>参考ページ【設備投資と運転資本】
【売上高売上債権率、売上高棚卸資産率、売上高買入債務率】
運転資本を算出するには普通に売上高との比率で求める場合と、1ヶ月分の比率(月商比)で求める場合がある。
どちらで計算しても、結果の誤差がわずかなので普通に売上高との比率で計算する。計算式は以下の通り。
以上を計算すると、
売上高売上債権率=10.41(%)
売上高棚卸資産率=1.88(%)
売上高買入債務率=2.68(%)
となる。
>参考ページ【設備投資と運転資本】
【償却費率】
売上高に対する減価償却費の比率を求める。
減価償却費=187605(千円)
売上高=20816839(千円)
償却費率=187695/20816839
償却費率=0.9(%)
売上高償却費率は0.9%となる。
【FCF予想】
以上で求められた売上高比率をまとまると以下のようになる。
売上成長率 | 4.16% |
売上高EBIT率 | 15.00% |
設備投資率 | 0.75% |
売上高償却費率 | 0.90% |
売上債権率 | 10.41% |
棚卸資産率 | 1.88% |
買入債務率 | 2.68% |
実効税率 | 40.00% |
これを元に売上高成長に共に成長するFCFを予想すと次のようになる。
あ | 平成19年 | 平成20年 | 平成21年 | 平成22年 | 平成23年 |
売上高(千円) | 21683429 | 22586094 | 23526336 | 24505720 | 25525875 |
EBIT(千円) | 3252514 | 3387914 | 3528950 | 3675858 | 3828881 |
設備投資(千円) | 161669 | 168399 | 175410 | 182712 | 190318 |
減価償却費(千円) | 195415 | 203550 | 212023 | 220850 | 230044 |
設備投資(千円) | 161669 | 168399 | 175410 | 182712 | 190318 |
売上債権(千円) | 2258082 | 2352085 | 2450000 | 2551992 | 2658230 |
棚卸資産(千円) | 407153 | 424103 | 441758 | 460148 | 479303 |
買入債務(千円) | 580637 | 604809 | 629987 | 656213 | 683530 |
運転資本(千円) | 2084598 | 2171378 | 2261771 | 2355927 | 2454003 |
運転資本増減(千円) | 83312 | 86780 | 90393 | 94156 | 98076 |
NOPAT(千円) | 1951509 | 2032748 | 2117370 | 2205515 | 2297329 |
FCF(千円) | 1901942 | 1981119 | 2063591 | 2149497 | 2238979 |
※本当は10年後まで予想するのが良いが、スペースの関係上5年にしている。
これで5年後までのFCFが予想出来た。
各予想率は、あなたの好みで決定すればいよい。
今回紹介した手法は、あくまで初心者向けの基本的手法である。
投資をしていく上で、自分にあった手法を見つけていけばよいだろう。
では、次ではこのFCFに割引率を用いて実際に理論株価を算出する。
ゴールはあと少しだ!頑張ってくれたまえ!
【STEP3】で『亜細亜証券印刷』が5年間で生み出すFCFが求められた。
次は割引率(WACC)で割り引いて現在価値をはじき出す。
割引率(WACC)は【STEP2】で1.87%と算出されている。
1年~10年後の割引率は年々小さくなっていく。 ※【割引率とは】を参照。
その計算は次のようになる。
1年後のFCF÷(1+割引率)=1年後のFCF現在価値
2年後のFCF÷(1+割引率)2=2年後のFCF現在価値
3年後のFCF÷(1+割引率)3=3年後のFCF現在価値
・
・
・
10年後のFCF÷(1+割引率)10=10年後のFCF現在価値
10年後以降も企業が潰れない限り毎年FCFを生み続ける。
つまり残存価値があるのである。
一般的な企業というものは、誕生して始めの頃は急成長をする。
その後、業績が安定してくると成長も徐々に緩やかになってくる。
そして、ある一定のレベル(一流企業と呼ばれるレベルくらい)まで達すると、成長は完全に停滞するか、成長しても僅かなものかもしれない。
この考えを元に、成長率をゼロと設定して残存価値を求めると10年後以降のFCFは次のようになる。
10年後以降のFCF=10年後のFCF÷(割引率-永久成長率)
この場合永久成長率はゼロとして考える場合がほとんどである。
では、10年後までのFCF現在価値算出と、10年後以降の現在価値を以下の表にまとめてみた。
あ | H19 | H20 | H21 | H22 | H23 | H24 | H25 | H26 | H27 | H28 | 残存価値 |
FCF | 1901 | 1981 | 2063 | 2149 | 2238 | 2331 | 2429 | 2530 | 2635 | 2745 | 131842 |
割引係数 | 0.98 | 0.96 | 0.94 | 0.92 | 0.90 | 0.88 | 0.87 | 0.85 | 0.83 | 0.81 | 0.81 |
FCF現在価値 | 1863 | 1901 | 1940 | 1979 | 2020 | 2061 | 2103 | 2145 | 2189 | 2234 | 107292 |
10年間のFCF現在価値の合計にFCF残存価値を足したものが事業価値と考えられる。
文章だと分かりづらいだろうから、分かり易くグラフで見てみよう。
10年の間FCFは順調に伸びると推測する。
割引分は年々増加していき、10年後以降になると成長は完全に止まる。
しかし、10年後以降もFCFは生み続ける=残存価値
上の図でピンク色のFCF残存価値を全て足したものが事業価値なのだ。
以上の考えより『亜細亜証券印刷』の事業価値を算出してみる。
10年間のFCF現在価値+残存価値=127726(百万円)となる。
【企業価値】
企業価値とは、読んで字の如く『企業の価値』の事である。
一般的には事業価値に金融資産を足したものが企業価値と呼ばれている。
企業価値(EV)の計算式は以下の通り。
企業価値=事業価値+金融資産(現金、預金、有価証券) |
事業価値は上のほうで1227726(百万円)と分かっているので、金融資産は貸借対照表の『現金及び預金』、『有価証券』から求めよう。
事業価値=1227726(百万円)
現金及び預金=8377(百万円)
有価証券=2501(百万円)
企業価値=1227726+8377+2501
企業価値=138604
企業価値は138604(百万円)となる。
【株主価値】
株主価値とは、企業価値から負債や少数株主分を引いたものである。
負債は返済する必要のある有利子負債の事を指す。
これら債務者への返済は、株主より優先的なので企業価値から引く。
少数株主分とは、親会社に所有されていない連結子会社の株主の事である。分かり易く言うなら、ソフトバンク(親会社)はYAHOO(子会社)の株を持って いる。少数株主とはYAHOO(子会社)にとってはソフトバンク(親会社)以外の株主の事である。つまり、少数株主分とは全く関係のない第三者の株主達の 分の事である。
株主価値の計算は以下のようになる。
企業価値=138604(百万円)
有利子負債=385(百万円)
少数株主分=38(百万円)
株主価値=138604-385-38
株主価値=138181
株主価値は138181(百万円)となる。
【算定株価】
株主価値を発行済株式数で割ってやると1株当たりの算定株価が算出できる。この算定株価と現在の株価を比較して割安であるかどうかの判断をするのだ。
株主価値=138181(百万円)
発行済株式数=39.2937(百万枚)
算定株価=138181/39293.7
算定株価=3516.6
亜細亜証券印刷株式会社の算定株価は3516.6円と算出された。
2006年9月現在の株価が1170円前後なので、今の株価は安過ぎると判断できる。
これで一通り、DCF法での算定株価算出が出来た。
しかし、この算出法はバリエーションの基本中の基本である。
今の私はこの辺が精一杯というのが本音だ。
DCF法は実に奥が深くて、難しい。
ファンダメンタル分析を極めるなら、更なる勉学が必要である。
最初から諦めていては何も進まない。
私も更なる勉学に励み、我が帝國の繁栄に尽くして行こうと思う。
皆様の健闘を祈る!
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